コラム◆IT散歩/第1回:「ITを作る側と使う側」

コラム◆IT散歩/第1回:「ITを作る側と使う側」

先日ある雑誌に記事を寄稿した。その内容の1つが“巨人アマゾン”について。

2017年7月での米調査会社Synergy Researchの発表によると、世界のクラウド市場の34%がAWS(Amazon Web Service)であり、「独走状態」と表現していた。

ここで問いたい、「アマゾンはIT企業か?」。「否」である。アマゾンの業績におけるAWSの貢献度は大きいが、やはり根幹ではない。

話は変わるが、何年か前に「SIビジネスの崩壊」というセミナーで壇上に立ったことがある。その際、「SIビジネス」についての考察とともに、こう言った。

「自分たちはITを作っている。“IT企業”だと言っている企業ほど、ITを利用していない。社内システムすら、まともに使っていない」。

アマゾンはどうか?ITを利用し、ITを駆使している。勝ち組と言われる企業の多くは、ITを駆使し活用しているのではないか。

知っての通り、アマゾンは元々「本のネット販売、卸」である。

アマゾンの創業以来の理念は「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」「地球上で最も豊富な品揃え」。そして、「EDLP(Everything Low Price)」として「エブリシング・ストア」を実践している。

アマゾンの企業ロゴがそれを表している(aからzまでの品揃えを描いた「笑顔の矢印」)。

アマゾンは「ネット通販」であり「ITを駆使している企業」「ITを売っている企業」であるが、本質は「ロジスティクス」にある。

アマゾンが通販で販売している商品は多品種小口、そして短納期。このサービスのためには「物流」という点だけではなく、仕入れ、輸送はもちろん、倉庫における入庫→入庫検品→棚入れ→保管→出荷指示→ピッキング→出荷検品→梱包→出庫という作業を効率的に運営しなければならない。

情報システムは、「注文管理」「物流管理」「購買管理」「配送管理」があるが、これらがアマゾン内だけではなく、サプライヤーや配送業社とも情報連携されている。全ての機能がIT連携され、一体となっているからこそ“スピード”を提供できる。

私もアマゾンをいつも利用している、本当に便利だ。「Prime Now」を使ったことのある方も多いだろう。「1時間で配達」、すごいサービスと思いながらも、本当にそこまでのサービスが必要なのかという疑問は湧いてしまう・・・

「宅配クライシス」という用語が近年現れた。

日本の宅配(トラック便)は、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便グループ、3社で90%以上のシェアを持つ寡占化事業である。逆に言えば、参入障壁が高い事業ということだ。一朝一夕で物流ネットワークを構築することはできない。

ネット通販の拡大、再配達問題、ドライバーの人員不足、長時間労働などや、運送トラックによるCO2にまで広がり、社会的な問題となった。その要因にはアマゾンのサービスも少なからず関係している。

「総量規制」を打ち出したヤマト運輸は、アマゾンとの契約において値上げを締結した。他の大口顧客に対しても強い姿勢で臨んだ。「顧客を失うことを厭わず」の姿勢が問題の深刻さを表している。一方で消費者、利用者はどうか。「運転手さんも大変だ」と寛大になり「過剰サービス」を考えるようになった。

下図はアマゾンの売上・営業利益の推移だ。

疑問に思うのは、驚異的な売上の伸びに対する営業利益の推移だ。グラフの下の位置にずっと張り付いている。これは、低価格対策や物流などの投資に収益を回しているからだ。物流への投資額はグローバルで兆の単位である。

アマゾンが巨大になればなるほど、社会的な歪みが発生していると思うのは私だけだろうか。アマゾンの進めるビジネスは社会と融合するのだろうか。

他の企業が次々と廃業したり、淘汰されていくことがあるとするなら、松下幸之助さんの言われる「企業は社会の公器」とは異なると思える。日本においては人口減、少子高齢化、過疎化という社会的な問題がある。企業はこうした社会と融合しなければいけない。

タイトルに話は戻るが、弊社は「ITを作る側」。アマゾンの徹底したIT活用は、コンピュータの基本である「機械化」というレベルではなく、「デジタルテクノロジーの駆使」として全ての企業に叡智を与えるもので、羨望の対象と言える。

日本市場でのSIビジネスは人手不足と聞く。「人手不足」の「人」が行っている作業は、本当に人がやらなければいけないことなのだろうか。冒頭の「SIビジネスの崩壊」セミナーでも話したが、ソフトウェアを作る「人」、システムを作る「人」に、資格はいらない、資格がない。昔はプログラマ35歳定年説というものがあった。資格がなく35歳で定年となる世界で、その先のビジネス人生をどう全うするのか。

「機械でできることは機械でやる」、これはコンピュータの基本であって、人はクリエイティブな作業に身を置くべきであると思うし、それこそが機械ではできない部分であるからだ。仕事がどういったものであるかは「働き方」の根本と考える。しかし、ITの進化により、今後はクリエイティブと思っていた部分さえAIやロボットがその仕事を奪う可能性がある。

英オックスフォード大が以前に発表した「10年後になくなる仕事」や、その他の調査から推し測れば、「プログラマ」はなくなるが「システムアナリスト」はなくならない。

「ITを作る側」も、「ITを使う側」として最大限に活用する。そして、「人に目を」向けたい。コンピュータもAIもクラウドもブロックチェーンもロボットも、全てのITは「人を幸せにする」ためにあるはずだ。

文責:永井一美

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