コラム◆IT散歩/第3回:「戸籍とマイナンバーとITと」(後編)

コラム◆IT散歩/第3回:「戸籍とマイナンバーとITと」(後編)

母が亡くなったのは病院。明け方に連絡を受け、駆け付けたが間に合わなかった。私の甥っ子(母にとっては孫)が葬儀社に勤めているので、病院から葬儀社施設への遺体移動など手際よく手配してくれた。

その日のうちに、葬儀社控室からお寺さんに電話し住職の都合を聞き、通夜や告別式の場所、日時を決定。「火葬許可証」が必要なため、役所への死亡届+死亡診断書の提出は葬儀社が代行してくれた。

・役所(行政サービス)のストレス

「戸籍住民課」

「死亡届」は死亡後7日以内での提出が必要。前段の通り、死亡当日にこの手続きは代行されている。
他に、今後の様々な手続きで必要となる「住民票(除票)」と私の戸籍謄本、印鑑証明をもらった。窓口に申請し、かなり待たされての完了。

「障害者福祉課」

障害を持っていたので、「障害者手帳」と「自動車燃料費助成券」を返却した。窓口は高齢者の方で、要領が分からず結局若い方が登場して終えた。

「国保医療年金課」

後期高齢者保険の支払いに関して、死亡したことによる手続き。窓口にて「区として葬儀支援費が出る」とのことで、それも申請。これはありがたい。

「介護保険課」

介護保険支払いに関して、死亡したことによる手続き。

最後に、

「税務課」

都民税、区民税を支払っていたので、死亡したことによる手続き。

区役所の後、別の場所にある「年金事務所」へも行く必要があった。

上記の通り、区役所では「戸籍住民課」「障害者福祉課」「国保医療年金課」「介護保健課」「税務課」と5か所の窓口を訪問しての手続き。各窓口は階も分かれている。それぞれ、申請→待ち→手続き・・・という流れ。申請時にも待つ場合があった。

このコラムをご覧になる方は「出生」に関する手続きが最近のことかも知れないが、「死亡」も「出生」同様、“必要となる手続き”は決まっているはずだ。
なぜ、1つの窓口で対応できないのか。

お年寄りの方が、区役所の担当から「・・・・がないとお手続きできません」、「そんなものはないから相談してるんだ」と口論していた。日常ではないものでの手続き。お年寄りが戸惑うのは当たり前だと思うし、家と区役所の往復を強いられるとしたら酷だ。

今後、高齢者夫婦だけの世帯でどちらかが亡くなるケースは多いはず。身体が不自由な方もいるだろう。手続きの煩雑さにプラスして、身体的な制限でお年寄りが完遂できると思えない。連れが、肉親が亡くなったという状況に対し、「事務的」なことで追い打ちをかけているようなもの。

・「世界電子政府ランキング」

国連が発表した「2016年世界電子政府ランキング」で日本は11位。前回の6位からランクダウンした。

一方、早稲田大学電子政府・自治体研究所による「世界電子政府進捗度ランキング調査2017」では、日本は前回の5位から4位になった。このランキングでは、1位がシンガポール、2位がデンマーク、3位が米国だ。部門別指標において日本は、「行政管理の最適化」及び「政府CIO」の2項目で1位、「電子政府復興」で2位になっている。

「行政管理の最適化」で1位・・・総務省に「行政管理局」という組織があり、以下のような説明がある。

【行政管理局の紹介】
行政管理局は、行政機関や行政サービスを効率的で、国民からの信頼性を高める取組を行っています。そのために、電子政府の推進、独立行政法人の見直し、独立行政法人評価等を行っています。
また、行政機関における個人情報保護、情報公開など、行政サービスの公正・透明性確保のために法律の適正な運用を行っています。(総務省:行政管理局HPより)

「行政管理局」が「行政」を統括管理する組織であるならば、行政の「非ITサービス」は「行政管理局」の責任と言える。そして、管理すべきサービスレベルの現状をみれば、進捗度調査と言え「1位」という順位付けは理解できない。

ちなみに韓国は国連調査で連続してずっと1位であった。2016年は3位にダウンしたが、逆に成熟しているがゆえかも知れない。「なりすまし」といった課題も聞くが、「マイナンバー」を早くから取り入れている。ほとんどの手続きはオンラインにより可能、役所の窓口に行く人はめったにいないらしい。

・「マイナンバー」はいずこ

区役所の手続きにおいて何かの書類に「マイナンバー」を記載したが、何に書いたか記憶が定かではない。窓口全てで必要なものではなかった。

「マイナンバー」とは何か?
マイナンバー(個人番号)とは何のこと?
マイナンバーとは、日本に住民票を有するすべての方(外国人の方も含まれます。)が持つ12桁の番号です。
*原則として生涯同じ番号を使っていただき、マイナンバーが漏えいして不正に用いられるおそれがあると認められる場合を除いて、自由に変更することはできません。(内閣府HP)

マイナンバー=個人番号 と明確に記載されているが、「個人番号」・・・日本語表現は管理イメージがある。

どうしてマイナンバーが必要なの?
マイナンバーは、社会保障、税、災害対策の3分野で、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されます。
(途中省略)
それぞれの機関内では、住民票コード、基礎年金番号、健康保険非保険者番号など、それぞれの番号で個人の情報を管理しているため、機関をまたいだ情報のやりとりでは、氏名、住所などでの個人の特定に時間と労力を費やしていました。
(途中省略)
これにより、行政の効率化、国民の利便性の向上、さらに公平・公正な社会を実現します。(内閣府HP)

ここでは、“失敗した”と言っていい「住基ネット」「住民基本台帳カード」に触れていない。住基ネットは自治体のためのシステムであるが、廃止するという話はないようだ。

また、社会保障・税・災害対策のためという限定的な目的とされていながら、「行政の効率化」「国民の利便性向上」という限定を超えたことに言及している。

「マイナンバー」の話が出たときに「税対策だろう」として、拒否感を覚えた国民は多い。1900年代に一旦導入が決まった「グリーンカード」が、反発が強く廃案となったのは悪しき事例だ。

Imperial_Palace

内閣府では「マイナちゃん」という「うさぎ」のキャラクターを作っている。

写真の一番右だが、正式に「マイナちゃん」のロゴマークを利用するためには「使用申請書」に記載し、内閣府に郵送し承認を受けなければいけない。不正利用を考え慎重になるのは分かるが、どんどん利用してもらった方が良いのではないか。“マイナンバーはいずこ”だ。この制度を広め、浸透させなければいけないのだから。

・年金手続きでの出来事

区役所での手続きに手間がかかったが、その後テクテクと数十分歩き年金事務所へ。サービス時間にギリギリセーフ。

【「音声ガイダンス」というイライラ】
年金事務所は「電話で予約を」とのことだったので、事前に電話し「音声ガイダンス」に基づいて何回か番号をプッシュ。最終的に「ただいま混雑しております。改めておかけ直しいただくか、このままお待ちください」、ずっと待っても、再度かけても一向に繋がらない。結局、予約を無視して直接訪問。実際、事務所はガラガラだった。
「繋がらない電話」と「ガラガラな事務所」の乖離、唖然とする。

【年金という複雑なもの】
厚生年金を利回りで考えるとお得だという記事もあるが、年金制度は変動するから今の若者についてはどうなるか分からない。

年金事務所では、窓口の女性が書類を用意してくれて「マイナンバーカードありますか?」。作っていないので、「通知カード」を見せて書類に番号を記入。また、「身分を証明するものがありますか?」。運転免許証を提示。

しばらく待ち、周りと遮断された窓口に行き別の方と手続きを開始。「身分を証明するものがありますか?」・・・「さきほど提示した(心の叫び)」、素直に提示。窓口の男性の方がどうもはっきりせず、プロと思われる女性がやってきて、サクサクと手続きをしてくれた。

女性がPCの画面を見ながら、「お母様は厚生年金の記録がありますね?どこで働かれていましたか?」。記録としてあるはずだが教えてくれず、聞いてくる。自分が子供のころの話でうるおぼえだったが、「X会社かY会社かも知れない」と言ったら「おそらくそうです」・・・・・「なら教えて(心の叫び)」。
「ただ、年金は障害年金と厚生年金、どちらか高い方の支給になりますので」ということで、年金の手続きを終えた。

しかし、後日電話があり「法律改正で厚生年金分も取得できるので申請してください」。いつの法律改正か知らないが、なぜその場でそうした対応ができないのか。年金事務所は年金のプロではないのか?

・「電子政府」から「デジタルガバメント」へ

2014年のOECDによる勧告「Recommendation of the Council for Digital Government Strategies」にて、今後は「電子政府」という官主導イメージ・市民ニーズを汲み取る(Citizen-Centric)アプローチではなく、市民主導アプローチ(Citizen-Driven)への転換が世界の潮流となっている。

日本では内閣官房IT総合戦略室が主体となり、「デジタルガバメント実行計画」を発表した。

  1. デジタルファースト
    (手続き・サービスをデジタルで完結)
  2. ワンスオンリー
    (提出済の書類やデータの再提出を求めない)
  3. コネクテッド・ワンストップ
    (民間サービスを含めて手続き・サービスの一元的な提供)

が3つの原則。行政サービスの100%デジタル化だ。

身近なものとして、マイナンバー制度を利用し行政手続き等の申請時に住民票・戸籍謄本等の添付を省略できることや、「引越しワンストップサービス」として転居時の住所変更手続きが可能な限り意識することなく処理できる、とある。

そして、まさに今回の件である「死亡・相続ワンストップサービス」も記載があり「現状と課題」にはこう書かれている。

  • 行政手続等の棚卸調整において、「死亡・相続」に関連する手続は多数存在し、その大半がオンライン化されていない。
    また、我が国の年間死亡者数は直近で約130万人と増加傾向にある事からも、相続人の手続きに係る負担やその手続きを受ける行政機関・民間事業者等の負担軽減に向けた取組が必要である。

分かっているではないか。

「2018年度内に関係府省と課題解決に向けた調整を開始し、2019年度以降に制度改正等を踏まえ、可能なものから順次サービスを開始する」とも記載されている。絵に描いた餅ではなく、早く実現していただきたい。そのためには、縦割り行政にメスを入れる強いリーダーシップと実行力が必要だ。

しかし、キーである「マイナンバーカード」すら全く普及していない状況で「デジタルガバメント実行計画」を本当に遂行できるのか、「Citizen-Driven」を実現できるのか。
あるべき姿となっていたならば、母の「死亡」に関する手続きがどれほど楽でスムーズであったか。

今あるものを変える。変革・改革には強い決意と膨大な労力が必要であり、企業の場合でも組織が壁となり実行できないことが多い。小さな組織でもそれはある。

「デジタルガバメント」、期待するしかないが懐疑的に見ている自分がいる。ぜひそれを裏切って欲しい。

文責:永井一美

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